かつて、死んだことないから死んでみたくなるのは当たり前だと肯定してくれた歌手は、今の俺の殺してみたい感情も受け入れてくれるだろうか。
赤い薔薇の中に立っていた。
どうやって辿り着いたのかわからない。
一歩動くと棘が刺さるから、身動きが取れないのだ。
もしかすると、薔薇が育つ前から俺はここで眠っていたのだろうか。
しばらくすると薔薇は人の顔の溶けたものになり、俺の血を吸っていた。
ある顔が俺の顔を見てこう言った。
「死ね死ね死ね死ね死ね死ね」
目が覚めると現代文の授業は、いつのまにか数ⅡBに変わっていた。
教師はだるそうな顔で黒板にチョークの火花を散らせながら放物線を描いていた。
白より黄色の方が柔らかいのだろう。
放物線を描いた黄色のチョークは勢いよく真っ二つに割れて教師の足に落ちた。
教師はそれを拾う様子なく、説明を続けた。
蝉の声をかき分けてまで、教師の説明を聞く気分にならず、ただただチョークの粉を溜め込んだ教師の肺を想像していた。
「シネシネシネシネシネシネ」
蝉がそのように鳴くことを知ったのはつい3年ほど前からだったか。